この記事の結論
ピラティスは、ゆっくりした深い呼吸と「今使っている筋肉」への集中を組み合わせた運動です。呼吸に意識を向け、体の感覚に集中する時間が、頭の中のざわつきから離れるきっかけになり、終わったあとに気持ちがすっきりしたと感じる人が多くいます。激しい運動が苦手な人でも取り組みやすいのが利点です。この記事では、ピラティスが心に働きかける理由、自律神経との関係、疲れた日でもできるリラックスメニューを紹介します。
心と体の両方が整ってこそ健康
健康というと、まず体の状態を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、気持ちが前向きで生き生きしていても体が不調ばかりでは毎日を楽しめませんし、反対に体は元気でも心が疲れきっていては、健康とは言いにくいものです。
体を鍛える運動はたくさんありますが、心にも働きかけてくれる運動はそれほど多くありません。ピラティスは、創始者のジョセフ・ピラティス自身が心と体の両方を重視していたこともあり、体だけでなく心を整える運動としても注目されています。体への集中を通じて心を整えることから、ピラティスは「動く瞑想」と呼ばれることもあります。
運動がストレス解消に役立つ理由
仕事帰りにジムやフィットネスクラブに通う人も多いように、体を動かすとストレスが発散できることは、多くの人が経験的に知っています。運動が気分の改善やストレスの軽減に役立つことは、さまざまな研究でも報告されています。
気持ちが切り替わる
運動している間は、体を動かすことに意識が向くため、仕事や人間関係の悩みから一時的に離れることができます。この「気持ちの切り替え」が、ストレス解消の大きな要素の一つです。
体が適度に疲れ、眠りやすくなる
適度な運動は、体を心地よく疲れさせ、夜の眠りにつきやすくする助けになります。睡眠の質が整うことは、ストレスへの対処にもつながります。
脳内物質の働き
運動によって脳内でさまざまな物質の分泌が変化することが知られており、気分の変化との関係が研究されています。旧来の記事では「運動すると快楽ホルモンと呼ばれるノルアドレナリンやセロトニンが沢山分泌される」と説明していましたが、これらの物質の働きは複雑で、「快楽ホルモン」とひとくくりにするのは正確ではありません。ここでは「運動は脳の状態にも影響し、気分の変化と関係している」という理解にとどめておきましょう。
ピラティスならではの3つのリラックス要素

運動全般にストレス解消の効果が期待できる中で、ピラティスには特有の要素があります。
1. 深い呼吸
ピラティスでは、胸式呼吸と呼ばれる深い呼吸を続けながら動きます。深呼吸をすると気持ちが落ち着くことは、誰もが経験したことがあるでしょう。ゆっくりと長く息を吐く呼吸は、気持ちを落ち着かせる方法として広く知られています。
ピラティスでは、普段は無意識に行っている呼吸を、意識して行います。この「意識して呼吸する」こと自体が、自分の内側に目を向けるきっかけになります。
2. 体の感覚への集中
ピラティスでは、「今どの筋肉を使っているか」「背骨はどの位置にあるか」に意識を集中させながら動きます。意識を体に向けることで、筋肉がより働きやすくなるだけでなく、頭の中で考えごとがぐるぐる回る状態から離れやすくなります。
人の「心」は体のどこかに目に見える形で存在するわけではありませんが、呼吸や体の感覚を通じて自分の内側を感じ取る、という考え方がピラティスにはあります。ピラティスが「心と体を結びつける運動」と言われるのはこのためです。
3. ゆっくりとした、無理のない動き
ピラティスは、勢いや反動を使わず、ゆっくり丁寧に動く運動です。激しい運動が苦手な人や、疲れていて激しく動く気分になれない人でも取り組みやすいのが特徴です。「ゆるやかな運動でストレス解消になるのか」と思う人もいるかもしれませんが、だからこそ心身をリラックスさせやすいともいえます。
自律神経とピラティスの関係

ストレスの話をするときによく登場するのが「自律神経」です。
自律神経とは
自律神経は、呼吸、心臓の動き、血液の流れ、消化など、生命を維持するための働きを、意識しなくても自動的に調整している神経です。自律神経には、活動しているときや緊張しているときに優位になる「交感神経」と、休んでいるときやリラックスしているときに優位になる「副交感神経」があり、この2つがバランスを取りながら働いています。
ストレスの多い状態が続くと、交感神経が優位な状態が長引き、体が休まりにくくなると言われています。
呼吸は自分で変えられる数少ない働き
自律神経は、基本的に自分の意思で直接コントロールすることはできません。しかし、自律神経が関わる働きの中で、呼吸は数少ない「意識して変えられる」ものです。ゆっくりとした呼吸を意識することで、気持ちが落ち着いたと感じる人は多くいます。
ピラティスの呼吸に集中する時間は、慌ただしい日常の中で、意識的に「ゆっくり呼吸する」時間をつくることでもあります。
「免疫力アップ」は慎重に考える
旧来の記事では、ピラティスで自律神経が整い、免疫力がアップすると説明していました。自律神経と免疫に関係があることは研究されていますが、ピラティスによって免疫力が上がると断定できる根拠は限られています。また、「脳が活性化してボケを防ぐ」という表現も、ピラティス特有の効果として確認されたものではありません。
ピラティスは、運動、睡眠、食事を含めた生活習慣の一部として、心身を整える助けになるもの、と捉えておきましょう。
マインドフルネスとの共通点
近年、ストレス対策として「マインドフルネス」という言葉を耳にする機会が増えました。マインドフルネスとは、過去や未来のことではなく、「今この瞬間」の自分の体や感覚に、評価をせずに注意を向ける心の状態や、そのための練習を指す言葉です。
ピラティスでは、「今、どの筋肉を使っているか」「呼吸は止まっていないか」「背骨はどの位置にあるか」に意識を向けながら動きます。これは、今この瞬間の体の感覚に注意を向けるという点で、マインドフルネスの考え方とよく似ています。
じっと座って瞑想するのが苦手な人でも、体を動かしながらなら集中しやすいという人は少なくありません。ピラティスは、動きを通じて「今」に意識を向ける練習としても活用できるのです。
場面別:ストレスを感じたときの使い分け
ストレスの感じ方や、使える時間は場面によって異なります。状況に合わせて、取り入れ方を変えてみましょう。
続けることで得られる「達成感」
ピラティスを続けていると、最初はできなかった動きができるようになったり、硬かった体が少しずつ柔らかくなったりします。こうした小さな進歩は、「自分にもできた」という達成感や充実感をもたらしてくれます。
自分の体の変化を感じることは、自信や前向きな気持ちにつながります。ピラティスが心にもよい影響を与えると言われる理由の一つは、この積み重ねにあるのかもしれません。
疲れた日にもできるリラックスメニュー

ストレスがたまっているとき、疲れているときこそ、短時間でもピラティスを取り入れてみましょう。ここでは、ベッドの上や床で行える、強度の低いメニューを紹介します。
1. 仰向けの胸式呼吸(3分)
仰向けで膝を立て、両手を肋骨に添えます。目を閉じて、鼻から吸って肋骨を横に広げ、口から細く長く吐きます。ポーズを取らなくても、呼吸に集中するだけで気持ちは落ち着いていきます。吐く時間を吸う時間より長めにとるのがポイントです。
2. ペルビックカール(5回)
仰向けで膝を立て、吐きながら尾骨から背骨を一つずつ持ち上げ、吸って止まり、吐きながら背骨を一つずつ戻します。背骨を一つずつ動かす感覚に意識を向けることで、頭の中が静かになっていきます。
3. 膝倒し(左右5回ずつ)
仰向けで膝を立て、両膝をそろえたまま、吐きながら片側にゆっくり倒し、吸いながら戻します。腰まわりと背中がやさしくねじられ、こわばりがほぐれていきます。
4. 休息のポーズ(1分)
正座の姿勢から上半身を前に倒し、額を床やクッションにつけて、腕を体の横か前に伸ばします。背中に空気を送り込むように呼吸し、全身の力を抜きます。ヨガのチャイルドポーズに似た姿勢で、ピラティスのレッスンでも休息の姿勢として使われることがあります。
5. 仰向けで全身脱力(1$301C2分)
最後に、脚を伸ばして仰向けになり、手のひらを上に向けて全身の力を抜きます。呼吸を普段のリズムに戻し、体が床に沈んでいく感覚を味わいましょう。
合計10分程度で行えるメニューです。寝る前に行えば、1日の緊張をゆるめる習慣にもなります。
ストレス解消のために取り入れるコツ
- 完璧を目指さない: 動きが上手にできなくても構いません。呼吸に集中する時間をつくることが目的です。
- 時間を決める: 朝起きたとき、寝る前など、毎日同じタイミングに組み込むと習慣化しやすくなります。
- 環境を整える: スマートフォンの通知を切る、照明を少し落とすなど、集中しやすい環境をつくりましょう。
- スタジオのレッスンも活用する: 自宅だとつい考えごとをしてしまう人は、インストラクターの声に従って動くスタジオのレッスンのほうが集中しやすい場合もあります。
注意点:心の不調が続くときは
ピラティスは心身をリラックスさせる助けになりますが、治療ではありません。気分の落ち込みや不安が長く続く、眠れない日が続く、日常生活に支障が出ているといった場合は、一人で抱え込まず、医療機関や専門家に相談してください。
よくある質問
Q. ヨガとピラティス、ストレス解消にはどちらがいいですか?
A. どちらも呼吸と集中を大切にする運動で、ストレス解消に役立ちます。瞑想や精神性を重視したいならヨガ、体を動かしながら気持ちを切り替えたいならピラティスが合っている傾向があります。自分が心地よいと感じるほうを選びましょう。
Q. 夜にピラティスをしても眠れなくなりませんか?
A. 強度の高いレッスンを寝る直前に行うと、体が興奮して寝つきにくくなることがあります。寝る前は、ここで紹介したような呼吸中心の強度の低いメニューにとどめるのがおすすめです。
Q. 忙しくて時間がとれません。
A. 3分の呼吸だけでも構いません。通勤電車の中や、デスクワークの合間に、ゆっくり吐く呼吸を数回行うだけでも、気持ちを切り替えるきっかけになります。
Q. ピラティス中も考えごとをしてしまいます。
A. 最初はそれで構いません。考えごとに気づいたら、責めずに呼吸や体の感覚へ意識を戻すことを繰り返しましょう。この「気づいて戻す」ことの繰り返しそのものが、集中する力を育てる練習になります。
まとめ:疲れているときこそ、呼吸から始めよう
ピラティスは、深い呼吸、体の感覚への集中、ゆっくりとした無理のない動きによって、心と体の両方に働きかける運動です。激しい運動が苦手な人や、疲れている日でも取り組みやすく、続けることで達成感や自信も得られます。
ストレスを感じたときこそ、まずは数分の呼吸から始めてみてください。気持ちも体も少し軽くなるはずです。
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