この記事の結論
ピラティスの呼吸は、お腹を薄く引き込んだまま、肋骨を左右と背中側に広げて吸う「胸式呼吸(ラテラル呼吸)」が基本です。お腹の深い筋肉を働かせ続けたまま呼吸できるため、動いている最中も体幹が安定します。この記事では、腹式呼吸との違い、正しいやり方を4ステップで解説し、よくある失敗と練習メニュー、呼吸とリラックスの関係まで紹介します。
なぜピラティスでは呼吸が大切なのか
ピラティスの基本原則の一つに「呼吸」があります。動きの形をまねするだけではなく、呼吸と動きを連動させることで、はじめてピラティス本来の効果が得られると考えられているからです。
レッスンで「インストラクターと同じ動きがどうしてもできない」と感じるとき、原因が柔軟性や筋力の不足ではなく、呼吸が止まっていることにある場合も少なくありません。息を止めると体は無意識に力み、肩や首に余計な力が入ります。その結果、本来使いたいお腹や背中の深い筋肉がうまく働かなくなってしまうのです。
普段、私たちは呼吸をほとんど意識していません。だからこそ、ピラティスでは「意識して呼吸する」ことを練習します。呼吸に意識を向けることは、体の内側の感覚に集中することでもあり、心を落ち着かせることにもつながります。
胸式呼吸(ラテラル呼吸)とは

ピラティスで使われる呼吸法は、「胸式呼吸」または「ラテラル呼吸」と呼ばれます。ラテラル(lateral)は英語で「横の、側面の」という意味で、肋骨を横方向に広げるように呼吸することからこう呼ばれています。
腹式呼吸との違い
腹式呼吸はリラックスに向いた呼吸として知られており、ヨガや発声練習などでも広く使われています。どちらが優れているということではなく、目的が違うと考えてください。ピラティスでは、お腹の深い筋肉(腹横筋など)を働かせた状態を保ちながら動くことを重視するため、お腹をふくらませない胸式呼吸を使います。
横隔膜はどちらの呼吸でも使われる
旧来の記事では、胸式ラテラル呼吸を「横隔膜を大きく動かして息をする方法」と説明していました。横隔膜は呼吸の主役となる筋肉で、実際には腹式・胸式のどちらでも使われます。ピラティスの胸式呼吸の特徴は、横隔膜を動かすことそのものより、「お腹の引き込みを保ちながら、肋骨を横と後ろに広げる」点にあると理解しておくと分かりやすいでしょう。
ピラティスの呼吸法:基本のやり方4ステップ

まずは、動きをつけずに呼吸だけを練習してみましょう。座っても、仰向けに寝ても構いません。初めての人は、背中が床に支えられる仰向けのほうが感覚をつかみやすいはずです。
ステップ1:姿勢を整え、肋骨に手を当てる
仰向けになり、膝を立てて足を腰幅に開きます。腰を床に押しつけすぎず、反りすぎもしない自然な位置に骨盤を置きましょう。両手を肋骨の下のほう、脇腹のあたりに添えます。手のひらで肋骨の動きを感じられるようにするのがポイントです。
ステップ2:鼻から吸って、肋骨を横と背中に広げる
お腹を軽く引き込んだまま、鼻からゆっくり息を吸います。このとき、手を当てた肋骨が左右に押し広げられるのを感じてください。背中側の肋骨が床に向かって広がる感覚もあれば理想的です。お腹をふくらませないように、また肩が持ち上がらないように注意します。
ステップ3:口から吐いて、肋骨を閉じ、お腹をさらに引き込む
口から細く長く息を吐きます。広がった肋骨が中心に向かって閉じていき、おへそが背骨に近づくようにお腹をさらに薄くします。体の中の空気を、下から上へ絞り出すイメージです。吐く時間は、吸う時間より少し長めにとりましょう。
ステップ4:同じリズムで5$301C10回繰り返す
吸って広げる、吐いて閉じる、を繰り返します。慣れないうちは、吸うのに4カウント、吐くのに6カウントなど、数を数えながら行うとリズムがつかみやすくなります。数は目安なので、苦しくならない長さで調整してください。
よくある失敗とその直し方
胸式呼吸は簡単そうに見えて、慣れるまでは意外と難しいものです。次のような失敗がよく見られます。
肩が上がってしまう
胸で吸おうとするあまり、肩をすくめて息を吸ってしまうケースです。これでは首や肩に力が入り、肩こりの原因にもなりかねません。肩は耳から遠ざけるように下げたまま、肋骨の「横」に空気を入れる意識を持ちましょう。
お腹がふくらんでしまう
普段から腹式呼吸に慣れている人に多い失敗です。吸うときにお腹の引き込みがゆるんでしまいます。最初はお腹を完全に固める必要はありません。おへその下を軽く引き込む程度から始め、少しずつ保てる時間を伸ばしていきましょう。
呼吸が浅く、速くなる
力を入れようとすると、呼吸が浅く速くなりがちです。速い呼吸はかえって体を緊張させます。動きの途中で呼吸が乱れたら、一度動きを止め、呼吸を整えてから再開しましょう。
吐ききる意識が強すぎる
「吐ききる」ことを意識しすぎて、苦しくなるまで吐き続けてしまう人もいます。目指すのは、無理なく長く吐くことです。苦しさやめまいを感じたら、すぐに普通の呼吸に戻してください。
胸式呼吸ができているかのセルフチェック
正しくできているか不安なときは、次の3点を確認してみましょう。
- 肋骨に当てた手が横に押し広げられているか: 手が前に押し出されるだけなら、胸の前側だけで吸っている可能性があります。脇腹や背中側にも空気を送り込むイメージを持ちましょう。
- 吸っているときにお腹がふくらんでいないか: おへその下に片手を置き、吸うときに手が持ち上がらなければ、お腹の引き込みが保てています。
- 鏡で見て肩が上下していないか: 肩が動いている場合は、首や肩で呼吸してしまっています。肩の力を抜き、肋骨の動きに集中しましょう。
3つすべてができていれば、胸式呼吸の基本は身についています。最初からすべてできなくても問題ありません。1つずつ確認しながら練習を重ねてください。
動きと呼吸を合わせるコツ
呼吸だけの練習に慣れたら、次は動きと組み合わせます。ピラティスでは、多くの場合「力を使うとき、体を丸めるときに吐く」「準備をするとき、体を伸ばすときに吸う」という組み合わせを基本にします。
息を吐くと、お腹の深い筋肉が働きやすくなり、体幹が安定します。そのため、頭や脚を持ち上げるなど負荷がかかる瞬間に吐くと、腰や首に余計な負担をかけずに動けるのです。
ただし、種目によっては逆のパターンを使うこともあり、インストラクターや流派によっても指示が異なる場合があります。レッスンでは指示に従い、自宅で行う場合は「力を使うときに吐く」を目安にしましょう。
呼吸を身につける練習メニュー
ここでは、呼吸と動きを連動させる練習として、初心者でも取り組みやすい3つのメニューを紹介します。
練習1:座位での呼吸
椅子に浅く腰かけ、背筋を自然に伸ばします。手を肋骨に添え、基本の胸式呼吸を10回行います。デスクワークの合間にもできるため、日常で呼吸を意識するきっかけになります。
練習2:ペルビックカール(骨盤を丸める動き)
- 仰向けで膝を立て、足を腰幅に開きます。
- 鼻から吸って準備します。
- 口から吐きながら、尾骨から順番に背骨を一つずつ床から持ち上げ、肩甲骨のあたりまでお尻を上げます。
- 上で吸います。
- 吐きながら、胸のほうから背骨を一つずつ床に戻します。
これを5回程度繰り返します。吐く息と背骨の動きを合わせることで、呼吸と動きの連動を体で覚えられます。
練習3:ハンドレッドの準備
ハンドレッドは、ピラティスを代表する呼吸のエクササイズです。本来は脚を持ち上げた状態で行う強度の高い種目なので、初心者は準備の形から始めましょう。
- 仰向けで膝を立てます。
- 吐きながら、頭と肩を少し床から持ち上げ、腕を体の横で床から浮かせます。
- 腕を小さく上下に動かしながら、5カウントで吸い、5カウントで吐きます。
- これを数セット行い、首がつらくなったら頭を下ろして休みます。
首に力が入りやすい種目なので、あごを軽く引き、視線はお腹のほうに向けると楽になります。
呼吸とリラックスの関係

ピラティスの呼吸には、体幹を安定させる以外に、気持ちを落ち着かせる働きもあると考えられています。
私たちの体には、意識しなくても働く自律神経があり、活動しているときに優位になる交感神経と、休んでいるときに優位になる副交感神経がバランスを取りながら働いています。自律神経は基本的に自分の意思で直接コントロールすることはできませんが、呼吸は数少ない「意識して変えられる」体の働きの一つです。ゆっくりと長く息を吐く呼吸は、気持ちを落ち着かせる方法として広く知られています。
ピラティスの呼吸に集中していると、頭の中で考えごとがぐるぐる回る状態から離れやすくなり、終わったあとに頭がすっきりしたと感じる人も多くいます。
「免疫力アップ」については慎重に
旧来の記事では、「胸式呼吸で横隔膜が動く→自律神経が整う→白血球が良いバランスになる→免疫力がアップする」と説明していました。自律神経と免疫に関係があること自体は研究されていますが、ピラティスの呼吸法によって免疫力が上がると断定できる根拠は、現時点では限られています。
適度な運動、十分な睡眠、バランスのよい食事といった生活習慣全体が健康を支えるものであり、ピラティスはその一部として取り入れる、と考えるのが現実的です。
呼吸法を行う際の注意点
- 苦しさ、めまい、手足のしびれを感じたら、すぐに中止して普通の呼吸に戻しましょう。
- 呼吸器や心臓の病気がある人、妊娠中の人は、事前に医師に相談してください。
- 食後すぐは避け、少し時間をあけてから行うと楽に呼吸できます。
- 無理に長く吐こうとせず、自分が心地よいと感じる長さから始めましょう。
日常生活で呼吸法を活かす場面
胸式呼吸はレッスンの中だけのものではありません。日常の中で思い出すことで、姿勢や気持ちの切り替えに役立てられます。
特に「重いものを持つときに吐く」は、腰への負担を減らすうえでも覚えておきたい習慣です。
よくある質問
Q. 鼻から吐いてもいいですか?
A. 構いません。一般的には「鼻から吸って口から吐く」と教えられることが多いですが、流派やインストラクターによっては鼻から吐くよう指導することもあります。大切なのは、肋骨の動きとお腹の引き込みを保てているかどうかです。
Q. 胸式呼吸をするとかえって疲れます。
A. 慣れないうちは、普段あまり使っていない筋肉を使うため疲れを感じることがあります。最初は数回だけ行い、休憩を挟みながら少しずつ回数を増やしましょう。呼吸が苦しいと感じる場合は、吸う・吐く時間を短くして構いません。
Q. 腹式呼吸の練習もしたほうがいいですか?
A. 目的が違うので、両方できると便利です。ピラティスの動きの中では胸式呼吸、リラックスしたいときや寝る前には腹式呼吸、と使い分けている人も多くいます。
まとめ:まずは呼吸だけでもピラティスは始められる
ピラティスの呼吸は、お腹を引き込んだまま肋骨を横と背中に広げる胸式呼吸が基本です。腹式呼吸とは目的が異なり、体幹を安定させたまま動くために使われます。
呼吸法は、道具も場所も選ばず、今日からすぐに練習できます。まずは仰向けや椅子に座った姿勢で、1日数分から試してみてください。呼吸が自然にできるようになると、ピラティスのどの動きもぐっと楽に、そして効果的になります。
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